旅の充電戦略 2026年版 ― 120W急速充電・GaN充電器・2台持ち運用の全記録

バッテリー残量30%から、旅は変わる

深夜着の空港。搭乗券、宿の情報、地図、決済手段―次の行動に必要なものは、すべてスマホの中にある。

ベンチ横のコンセントが空いていたとしても、使えるのはせいぜい15〜20分。この短い時間で、次の移動に必要な分だけ回復できるかどうか。それが、旅の自由度を左右する時代になった。

90年代、バックパックひとつで東南アジアを歩いていた頃は「充電」という概念がなかった。紙の地図を折りたたんで、『地球の歩き方』に付箋を貼り、現地で両替した現金を腹巻きに入れていた。道に迷ったら人に聞けばよかった。

今は違う。地図も、宿の予約も、決済も、翻訳も、連絡手段も、撮影も、全部スマホ1台に集約されている。正直なところ、財布やパスポートよりもスマホを失う方がダメージが大きい。充電が切れた瞬間、旅が止まる。次のバスの時刻が分からない。宿の住所も開けない。QR決済もできないし、撮りたかった景色も記録できない。

充電切れは「不便」ではなく「機能停止」である。

この記事では、筆者がバンコクと日本を行き来しながら実際に使っている充電環境を、考え方から具体的な装備まですべて公開する。スペック表の比較ではなく、旅の現場での実戦報告として読んでほしい。

なぜ120W急速充電に行き着いたのか

モバイルバッテリーでは解決しない問題

バッテリー残量が心もとないとき、まず思い浮かぶのはモバイルバッテリーだろう。しかし、モバイルバッテリーには見落とされがちな弱点がある。

まず、それ自体を充電しなければならない。つまり「充電するための充電器」が増える。充電速度もスマホ本体に直接挿すより遅いことが多く、発熱もする。何より、バッテリーにつないでいる間はスマホを自由に取り回しにくい。ポケットからケーブルが垂れた状態で屋台を歩き回るのは、率直に言ってストレスである。

旅で一番貴重なのは時間だ。急速充電は、その時間を買う技術である。

iPhoneの充電速度では足りなかった

以前はiPhoneを使っていた。撮影品質もエコシステムも不満はなかったが、旅先で困ったのは充電の遅さだった。

ドンムアン空港の国内線ターミナル。コンセントはあるが、場所が分かりにくいし先客がいることも多い。運良く空いていても、LCCの搭乗開始までの時間は短い。iPhoneの20〜27W充電だと、15分で回復できるのはせいぜい15〜20%程度。到着後にGrabを呼んで宿に着くまで持つかどうか、常に不安がつきまとう。

バンコクの屋台で充電させてもらうこともある。タイ語で「ชาร์จได้ไหมครับ(チャージ・ダイマイ・クラップ=充電していいですか?)」と聞けば、たいてい笑顔でOKしてくれる。しかし食事の時間はせいぜい10〜15分。この時間でどれだけ回復できるかが勝負になる。

いろいろ試した末に、Xiaomiの120W充電(ハイパーチャージ)に行き着いた。

実測データ:空港15分、屋台10分、宿で20分

使用端末はXiaomi 14T Pro。バッテリー容量5,000mAh、最大充電速度120W。付属充電器と専用6Aケーブル使用時のフル充電時間は約19分(10%→100%)。

カタログの数字だけだと伝わらないので、実際に旅先で計測した結果を示す。

ドンムアン空港、搭乗まで15分 ― 残量12%→68%。到着後のGrab手配やチェックインまで余裕で持つ。

バンコクの屋台、食事中10分 ― 残量25%→55%。午後の散策や撮影に十分な残量。

宿で朝の身支度中、20分 ― 残量5%→90%。その日一日、充電のことを考えなくてよくなる。

参考までに、iPhoneの20〜27Wだと同じ15分で残量12%→約30%。使えなくはないが、午後には残量が気になり始める水準である。

スペック上は「120W vs 27W」の差だが、体感では「充電を忘れていられる vs 常に気にしている」の差になる。

120W充電の注意点

専用充電器が必須

120Wの恩恵を受けるには、Xiaomi付属の専用充電器と6A対応ケーブルが必要である。汎用のUSB-C PD充電器では27〜45W程度しか出ない。

つまり、荷物が一つ増える。しかし後述するように、120W充電器を持つことでモバイルバッテリーの出番が激減するため、トータルの荷物はむしろ減った。

発熱とバッテリー寿命

120Wで充電すると多少の発熱がある。バッテリー寿命への影響もゼロではないが、公称では1,600回の充電サイクル後も容量の80%を維持するとされている。旅用スマホとしての使い方なら、気にしなくていい範囲だろう。

高温環境での速度低下

バンコクの3月、気温36度。屋外で充電しながらGrabのアプリを開いていると、スマホは内部温度を守るために充電速度を自動的に落とす。カタログ値120Wでも、猛暑の屋外だと実質50〜60W程度まで低下することがある。

ただし、もともと120Wの端末が50Wに落ちても、元が20Wの端末よりはるかに速い。「落ちてもなお速い」という余裕は、暑い国の旅では地味に助かる。

2台持ち運用 ― 充電器を共有できる、それだけの理由

なぜ2台持ちなのか

サブ機にはXiaomi 13T Proを使っている。理由はシンプルで、こちらも120W充電に対応しているからである。充電器とケーブルを共有できる。

旅先で持ち歩く充電器は、一つでも減らしたい。メインとサブで同じ充電器・同じケーブルが使えるだけで荷物が軽くなる。地味だが、毎日の旅ではかなり効いてくる。

役割分担:「撮る機材」と「歩く機材」

2台持ちでやることは単純で、役割を分けるだけである。

14T Pro(撮る機材) ― 写真・動画撮影、SNS投稿、noteの下書き、連絡手段。

13T Pro(歩く機材) ― 地図・ナビ(常時つけっぱなし)、現地SIM・eSIMでの通信、テザリング(メイン機のバッテリー節約)、万が一のバックアップ。

ポイントは、バッテリーを食う作業をサブに任せることだ。地図を常時表示しているとバッテリーの消耗が激しいが、それはサブの仕事。メインは撮影に集中させる。

実際の一日の流れ

朝、宿を出る ― 14T Pro 100%(前夜に充電済み)。13T Pro 100%(朝の支度中に120Wで充電、20分で完了)。13T Proでテザリングを開始し、14T Proはそのまま接続。メイン機のモバイル通信をオフにして、バッテリーの減りを抑える。

移動中 ― 13T Proをポケットに入れて地図を表示。14T Proはバッグの中で休憩。目的地に着いたら取り出して撮影。

昼、屋台で休憩(15分) ― 13T Proを充電。120Wなので15分で30%→75%まで回復。14T Proはまだ80%あるので充電不要。

夕方 ― 14T Pro 55%(撮影でだいぶ消費)、13T Pro 50%(地図とテザリングで消費)。夕食の店で13T Proだけ充電。10分で80%に回復。14T Proは翌朝まで持つ。

夜、宿に戻る ― まず14T Proを120Wで急速充電、20分で完了。その後GaN充電器に切り替えて、13T Proとカメラバッテリーをまとめて充電。翌朝、全デバイス100%。

2台持ちのデメリット

正直に書くと、荷物は増える。スマホ2台分の重さとスペースがかかる。最初の2〜3日は「あれ、どっちで何するんだっけ」と混乱する。ただ、慣れると自然に手が伸びる方が決まってくる。

初期費用もかかるが、13T Proは型落ちなので手頃な価格で買える。

それでも2台持ちの一番の安心感は、片方が壊れたり盗まれたりしても、もう片方で旅を続けられることだ。保険としての価値がある。

iPhoneユーザーが2台持ちする場合

ここまで読んで「結局iPhoneはダメなのか」と思った人もいるかもしれない。まったくそんなことはない。

iPhoneは旅の道具としてよくできている。カメラの色味が安定している。動画の手ブレ補正が優秀。AirDropで写真をすぐ共有できる。iCloudで自動バックアップされる。そして世界中に修理拠点がある。バンコクにもハノイにもクアラルンプールにも、Apple正規サービスプロバイダがある。画面が割れても即日交換が可能で、最悪新品を買ってもiCloudですべて復元できる。この安心感は、Androidにはなかなかない。

問題は充電速度だけである。

だから提案したいのは「iPhoneを持ったまま、Androidをサブに追加する」という選択肢だ。

iPhone(メイン) ― 撮影、iCloudバックアップ、Apple Pay、連絡手段。

Androidサブ機 ― 地図・ナビ、現地SIM・eSIM、テザリング、急速充電で回復担当、予備機。

サブ機に高性能カメラは不要で、それはiPhoneの仕事である。サブ機に求める条件は、急速充電(60W以上)、eSIM対応、テザリングの安定性、壊れても泣かない価格帯、できれば防水。この条件で探すと、Xiaomi、OPPO、Pixelあたりから手頃な選択肢が見つかる。

夜の充電渋滞をなくす ― GaN充電器の活用

カメラを持つと、充電が一段階複雑になる

ミラーレスやコンデジを持って旅する人は多いだろう。スマホとは別にカメラを持っていくと、夜の充電が途端に大変になる。

筆者の場合はSonyのカメラを使っており、バッテリー(NP-FZ100)のフル充電にUSB-C経由で約3時間かかる。撮影が長い日は予備バッテリーを2〜3本持ち歩くので、宿に戻ると充電待ちの列ができる。

スマホ2台、カメラバッテリー2〜3本、ときにはモバイルバッテリー。コンセントが1つしかない安宿だと、順番待ちで寝る時間がなくなる。

GaN充電器でコンセント1口から全部まかなう

ここで威力を発揮するのがGaN(窒化ガリウム)充電器である。小型軽量でありながらUSB-Cポートが2〜3個付いており、複数のデバイスを同時に充電できる。

カメラを持たない人でも、スマホ+イヤホン+モバイルバッテリーを同時に充電したい場面はあるだろう。マルチポート充電器は旅のスタイルを問わず重宝する。

充電の優先順位を決めておく

複数デバイスを充電するとき、筆者はこの順番にしている。

  1. メインスマホ(翌日の行動に直結するため最優先)
  2. サブスマホ(地図と通信の生命線)
  3. カメラバッテリー1本目(翌日の撮影の最低保証)
  4. カメラバッテリー2本目以降(余裕があれば)
  5. モバイルバッテリー(最後でよい)

この順番を事前に決めておくだけで、夜の充電に迷いがなくなる。疲れて宿に帰ってきた夜に「次はどれ挿そう」と考えなくてよいのは、地味にありがたい。

充電器3台体制 ― それぞれの役割

充電器は1台に絞りたいところだが、筆者の場合は3台を役割別に持っている。多いと感じるかもしれないが、それぞれに明確な出番があり、どれも外せない。

① Xiaomi付属120W充電器+6Aケーブル(切り札)

デイバッグに常に入れている。空港で15分、屋台で10分、とにかくスマホを最速で復活させたいときの出番。Xiaomi専用のため他のデバイスには120Wの恩恵がないが、スマホの緊急回復にはこれ以上の選択肢がない。

② GaN充電器 100Wクラス(サブバッグに常備)

USB-C×2、USB-A×1の3ポート構成。外出先のカフェなどで、スマホとカメラバッテリーを同時に充電したいときに使う。100Wあれば、PD対応のデバイスならたいてい速度に不満はない。

120W充電器がスマホ特化なのに対して、こちらは「何でも挿せる万能選手」という位置づけ。サイズもコンパクトなので、サブバッグに入れっぱなしにしている。

もう一つの理由は、予備としての意味合いである。宿の160W充電器が壊れたり、どこかに忘れたりしても、100Wがあれば旅は止まらない。充電器が1台しかない状態でそれが壊れたときの絶望感は、一度経験すると分かる。

③ GaN充電器 160Wクラス(宿の母艦)

USB-C×3、USB-A×1の4ポート構成。単ポート最大140W、合計160W。宿に戻った夜の「充電ステーション」になる。コンセント1つで、スマホ2台+カメラバッテリー+もう1台、合計4台を同時に充電できる。

重量は約330gとそれなりにあるが、宿に置いておくものなので気にならない。旅先での「夜の充電渋滞」がなくなったのは、この160Wのおかげである。

その他の持ち物

USB-Cケーブルは充電器ごとに1本ずつ、合計3本。変換プラグはマルチタイプ(東南アジアはBF型とC型が混在するため)。カメラ予備バッテリー(NP-FZ100)は2本。

モバイルバッテリーの出番が減った理由

モバイルバッテリーは一応持っていくが、Xiaomiの120Wに変えてからは正直そこまで重要ではなくなった。

以前はモバイルバッテリーが命綱だった。しかし今は、空港のコンセントで15分、カフェで10分、屋台でタイ語で一言聞いて10分。それで十分回復できるので、モバイルバッテリーの出番がほとんどない。

結局、モバイルバッテリーも充電しなければ使えない。切れたらただの重りである。それなら、コンセントを見つけて120Wで一気に回復する方が確実で速い。

ただし、山間部や離島などコンセントが見つかりにくい場所に行くときは保険として持っていく。都市部の旅なら、カフェ・屋台作戦で十分だろう。

はじめてのGaN充電器を選ぶ基準

筆者は特定メーカーを推したいわけではない。選ぶときに確認すべきポイントだけ書いておく。

必須条件

100〜240V対応(ユニバーサル仕様) ― これが最優先。日本は100Vだが、東南アジアは220〜240Vの国がほとんどである。対応していない充電器を海外のコンセントに挿すと、故障するか最悪の場合発火する。まともなGaN充電器ならたいてい対応しているが、購入前に本体裏面かパッケージの「Input: 100-240V」の表記を必ず確認してほしい。なお、充電器と並んで海外旅行の準備で見落としやすいのが通信手段だ。eSIMキャリアローミングの選択肢は別記事でまとめている。

USB-Cポートが2つ以上 ― 最低でも2ポートないと、旅先での同時充電ができない。

合計出力65W以上 ― カメラも充電するなら100W以上が安心。ちなみに60W以上あれば、たいていのUSB-C対応ノートPCも充電できるため、PC用の充電器を別途持つ必要がなくなる。ただし、動画編集のような重い処理を走らせると60Wでは電力が足りなくなることがある。そうした用途がある人は100W以上を選んでおいた方がよい。

プラグが折りたためる ― バッグの中で他の荷物を傷つけないために重要。

PSE認証 ― 日本で販売されている製品の安全基準。

あると嬉しい条件

USB-Aポートもあると、古いデバイスやFire Stickなどに対応できる。4ポート以上あれば、スマホ2台+カメラ+αの同時充電が可能。重量は350g以下が目安。

価格帯は65Wクラスで3,000〜5,000円、100W以上で6,000〜12,000円程度。複数の充電器を1台に統合できると考えれば、旅の安心料としては妥当な投資である。

まとめ ― 充電を「旅の制約」から「旅の自由」に変える

この記事で伝えたかったのは、特定の機種を買うべきだという話ではない。

充電を「旅の制約」から「旅の自由」に変えるための考え方を共有したかった。

iPhoneで十分な人もいる。120Wが必要な人もいる。2台持ちがちょうどいい人もいる。旅のスタイルによって正解は違う。

大事なのは、「充電どうしよう」と考える時間を、旅からなくすことである。

充電を気にせず写真を撮り続けられる。道に迷ってもすぐ地図が開ける。屋台で15分座っただけで、午後の旅が確保される。

旅は装備で決まるわけではない。しかし、装備が整っていると、旅はちょっと自由になる。

この記事を書いた人

nettai-dream