
正直に書く。上海浦東国際空港での空港泊に、一度失敗している。
2024年2月、バンコクから成田への帰国便で上海浦東を経由した。中国東方航空(実運航は上海航空)のBKK発19:55のMU8610便で、浦東T1に到着したのは深夜1:20。翌朝7:30発のMU727便で成田へ向かうまで、乗り継ぎ時間は6時間10分。
その3〜4時間を、ほとんど眠れずに過ごした。到着ロビーに出たはいいが、仮眠できそうな場所がどこにあるのかわからない。T1の到着フロアをウロウロと歩き回り、結局、壁際や床に座り込んで朝を待った。バンコクからの帰りで、防寒装備はユニクロのウルトラライトダウンとフリースだけ。2月の上海は冷える。薄着のまま床に座り、スマホの電池残量を気にしながら朝を待つのは、なかなかの修行だった。
それから二年あまり経った2026年6月、再び浦東を経由した。今度は夏で、バンコクからの帰り。前回の雪辱を果たすつもりだった―今度こそ、まともに横になって眠る。そしてもうひとつ、ある検証も兼ねていた。浦東での90分乗り継ぎが、現実に可能なのかを、自分の足で計ること。
結論から言えば、夜はまた眠れなかった。だが前回とは、まったく違う眠れなさだった。
2024年の失敗は、寒さと寝床の話だった。2026年に分かったのは、浦東がこの二年で、空港泊という行為そのものを静かに締め出しにかかっているということ―そして、横になれる場所は確かに在るのに、そこへ辿り着くまでが、もうひとつの関門になっているということだ。
この記事では、二度の夜を踏まえて、上海浦東で空港泊をする場合に知っておくべきことをまとめた。2025年以降の大きな変化も、その額面どおりにはいかない現実も含めて。
中国の空港泊全般の基礎知識(入国手続きの必要性、ビザ事情、百度での情報収集方法など)については、中国の空港泊完全攻略を参照してほしい。
上海浦東国際空港の基本情報
上海浦東国際空港は、中国最大の国際線ハブ空港のひとつだ。空港コードはPVG。
ターミナルは2つ。
- T1:中国東方航空の国際線が中心。日本路線の多くはこちら。
- T2:中国南方航空、中国国際航空、その他の航空会社が中心。
T1とT2はかなり離れており、シャトルバスまたは空港内の連絡通路で移動する。自分の便がどちらのターミナルかは、事前に必ず確認しておくこと。なお後述するが、T1にはAPM(旅客搬送車)で結ばれたサテライト(S1)があり、予約アプリの表示が「T1」でも実際の発着はサテライト、というケースがある。これが乗り継ぎ時に効いてくる。
上海市内中心部からは約30km。リニアモーターカー(磁浮)で龍陽路駅まで約8分、そこから地下鉄に乗り換えて市内へ。地下鉄2号線でも市内まで直通で行ける(所要約1時間)。タクシーやDiDiで市内中心部まで約40〜60分、150〜250元程度。
なお、上海にはもうひとつ虹橋空港(SHA)がある。主に国内線と近距離国際線が発着する空港で、浦東とは別の場所にある。2025年に開業した空港連絡線(エアポートリンク)により、浦東と虹橋の間が結ばれるようになった。乗り継ぎで空港を間違えないよう注意が必要だ。
上海浦東で空港泊はできるのか
できる。深夜でもターミナルビル自体は開いている。建物は灯り、Wi-Fiは飛び、イミグレも動き、コンビニも開いている。
問題は「どこで、どうやって過ごすか」だ。そして2026年時点では、その答えが二年前よりはるかに難しくなっている。横になれる無料の場所は年々絞られ、快適に過ごせるかどうかは、事前の情報収集と準備、そしてその夜の運に大きく左右される。
以下、2025年以降の変化と、2026年に再訪して分かった現実を順に見ていく。
安全検査の24時間化 ― 朗報、ただし額面どおりではない
2025年に入って、浦東には明るいニュースもあった。
2025年5月から、T1・T2の国内線安全検査が24時間対応になった。さらに同年7月からは、国際線の安全検査・税関・出国検査も24時間開放されたとされる。あわせて中国東方航空は24時間チェックインサービスを開始し、深夜に到着して翌朝の便に乗る乗り継ぎ客が、夜中のうちにチェックインを済ませて制限エリアに入れるようにする取り組みを進めている。
制度として見れば、これは確かな前進だ。搭乗券を入手してチェックインが済んでいれば、深夜でも出発側の制限エリアに入れる可能性がある。制限エリア内のほうがベンチや施設が充実しているので、到着ロビーで寝場所を探し回るより、ずっと快適に過ごせる可能性がある。2024年にT1の到着ロビーで床に座り込んで朝を待った時、この制度があれば、制限エリアに入って搭乗ゲート近くで過ごせたはずだ。
だが―2026年に再訪して分かったのは、「24時間」を額面どおり受け取ってはいけない、ということだ。
午前5時頃、出国(保安検査)に向かおうとした。だが、レーンが開くのは5時20分からだと告げられた。バンコクからの到着は、少し遅れて午前4時頃。24時間化を謳う空港で、いざ通ろうとすると、肝心の保安検査はまだ開いておらず、20分待てと返される。到着階か出発階で過ごす空白は、結局80分ほどになった。
午前5時30分頃、背中に「Security」と書かれた制服の一団が、スタッフ用のドアからぞろぞろと入っていくのを見た。レーンは自動で開くわけではない。係員がシフトで配置について、はじめて世界が動き出す。「全天24小时(終日24時間)」と書かれていても、その24時間は、人間のシフトに縛られた24時間だった。深夜から早朝の谷間、シフトが立ち上がる前の時間帯に当たれば、24時間化の恩恵は届かない。
念のため付け加えると、空港そのものは午前4時の到着時点で開いていた。「24時間空港」は看板倒れではない。動いていなかったのは、保安検査のレーン一本と、その先の施設だけだ。建物が開いている24時間と、全機能に触れられる24時間は、別物だということだ。
「入れるなら入る」 ただし“入る”が最大の難所
2025年以降の推奨は変わらない。制限エリアに入れるなら、入ってしまうのが最善だ。制限エリア内には、横になれるフラットな島(後述のサテライト側に多い)があり、到着ロビーで耐えるより圧倒的に快適に過ごせる。
ただし、この5時20分という時刻が、すべての便・すべての時間帯に当てはまるわけではない。便のターミナルや時間帯、その日の運用次第では、もっと早く―あるいは深夜のうちに―制限エリアに入れる可能性もある。中国東方航空の便で、24時間チェックインの対象であれば、なおさらだ。だから到着したら、まずカウンターや保安検査で「いま入れるか」を確認してみる価値はある。もしかしたら、入れるかもしれない。
問題は、その「もしかしたら」が外れたときだ。注意点を、現実に即して挙げておく。
- レーンが24時間「対応」でも、自分の便のレーンがその時刻に開いているとは限らない。早朝はシフト前で閉まっていることがある。
- チェックインが完了し、搭乗券を持っていることが前提。
- 中国はオンラインチェックインがほぼ機能しないため、24時間化と言ってもカウンターでの手続きが要る場面がある。
- 自分の便がサテライト(S1)発着の場合、入国や乗り継ぎでAPM移動が挟まり、想定より時間と手間がかかる。
- 結局、入れるかどうかは現場の判断とその夜の運用次第だ。
状況は確実に改善している。だが「24時間化されたから安心」ではなく、「改善は本物、ただし確実に使えるとは限らない」が、2026年の正確な温度感だ。
横になれる場所は「当たり券」になった ― PVGジャンボ
2026年に再訪して、はっきり分かったことがある。浦東で横になれる場所は、もう早い者勝ちの抽選券だということだ。これを勝手に「PVGジャンボ」と呼んでいる。
かつての浦東には、横になれるベンチや広い床が、当たり前のように余っていた。だが2025年5月頃、T2の1階にあった大量のベンチ(1,000席以上)が撤去されたとの報告がある。以前はここが空港泊の定番スポットで、広々と横になれた。撤去後は少数の丸いベンチに置き換わり、残ったベンチの多くは肘掛けや曲面で、そもそも横になれない設計だ。供給が絞られた結果、まだ横になれる数少ない場所は、確保できるかどうかが完全に運になった。実力でも知識でもなく、その夜の巡り合わせ。だから「探す」のではなく「当たる」が正しい。
しかもこの抽選には、はっきり等級がある。
特等は、制限エリア内の、マットが敷かれた横になれる島。設計の段階で横臥が想定されていて、靴を脱いで荷物を枕にすれば、本当に眠れる。ただしこれは保安検査を抜けた先、それも本館から離れたサテライト側にあることが多い。たどり着くには、深夜にチェックインと安全検査を突破していなければならない。線の向こうの特等は、線を越える資格と時間を持った者しか引けない。
中等は、出発側のカフェの長椅子のような、横になれなくはない席。コーヒー一杯分の滞在権を買って粘る。ただし先客がいれば、その時点でハズレだ。金を払う気があっても、肝心の席が空いている保証はない。記事に「ここで横になれる」とは書けない。書くなら「運が良ければ」だ。
末等は、横になれないと分かっていても、せめて座れる場所。植栽を囲う石の縁石のような、ベンチを装っただけの非ベンチ。冷たくて硬く、曲面で身長分の直線も取れない。それでも、当たり券が出払った深夜には、座れるだけマシな準当たりに繰り上がる。
そして、すべてのくじが外れたとき、残るのは二つだ。横になれない椅子で直立に近い姿勢のまま朝を待つか、潰された床に直接座るか。
だからこそ、後述する持ち物のマットが効いてくる。抽選に外れても、薄手のマットや羽織りもの一枚があれば、空いている床や石のベンチを、自分の装備でベッドに変えられる。無料で横になる最後の保険は、もはや空港が用意してくれるものではなく、自分のザックの中にしかない。
サテライトという罰ゲーム ― 特等席には代償がある
横になれる特等席が、本館から離れたサテライト(S1)側にある。これは朗報のようでいて、そう単純ではない。サテライトに渡る、あるいはサテライトに着いてしまうと、相応の代償を払うことになる。
やっかいなのは、予約アプリの表示が「T1」だったことだ。乗客はT1着のつもりで動線を予想するが、実際に降ろされるのはサテライト。サテライトは本館T1とAPM(旅客搬送車)で結ばれた離れで、便宜上T1の一部として扱われるため、アプリの大枠の表示からは「実はサテライト発着で、APM移動が挟まる」ことまでは読み取れない。短時間乗り継ぎを組むなら、ここは要注意だ。
バンコクから到着したのも、このS1だった。入国するには、S1からAPMで本館T1へ渡り、T1側のイミグレを通らなければならない。スルーチェックインで翌便の搭乗券を持っていたにもかかわらず、入国側に振り分けられた。荷物は最短ルートで先に成田へ向かっているのに、人間だけがサテライトから本館へ運ばれて入国し、また搭乗のために動く。
トランスファーカウンターは、乗り継ぎを助けない
S1には乗り継ぎ案内のカウンター「中転服务/TRANSFER SERVICE」があった。だが深夜、そこに係員は一人しかいなかった。
乗り継ぎ客が次々と集まり、列になって質問する。そして、その一人が返す答えは、毎回同じだった。入国(イミグレ)の方向を指さすのだ。煌々と光る「乗り継ぎサービス」の窓口の実質的な機能は、乗り継ぎを処理することではなく、乗り継ぎ客を入国へ振り分けることだった。
これを見て「待つだけ無駄だ」と判断し、列を捨てて自分でイミグレへ向かった。時間に余裕があったから取れた選択だが、どうせ全員イミグレ送りなら、係員一人の処理速度に並んで律速されるより、自分の足で動いたほうが速い。
ひとつ補足しておく。この窓口の無力さは、係員の能力の問題ではなく、早朝という時間帯の人員配置の問題かもしれない。日中、人手が揃った時間帯なら、本来の乗り継ぎ処理が機能する可能性はある。経験したのは、あくまで「シフトが立ち上がる前の浦東」だ。ここは断定を避けておく。
英語は通じない前提で
もうひとつ、心構えとして書いておく。チェックインカウンターの職員は英語が普通に話せる。だが、ゲート周りや誘導を担うグランドスタッフは、意外なほど英語が怪しい。そして乗り継ぎで交渉が要る場面は、たいていこのグランドスタッフが相手になる。
これだけ電子化・自動化が進んだ空港でも、いざ例外が起きて人に頼る場面―乗り継ぎカウンターでの交渉、動線の確認―になると、英語が通じずに話が前に進まないことがある。
そこで得た教訓は、シンプルだ。グランドスタッフと英語で粘って動線をなんとかしようとするより、いっそ確実に入国して、手続きとしてS1に戻ってきたほうが確実だということ。エアサイドで通そうとする動線は、相手の裁量と英語力に依存する不確実なルートだ。通じなければ立ち往生する。一方、入国してしまうのは、誰の裁量も交渉も要らない、定型の確実なルート。多少遠回りでも、各ステップが予測できるぶん、トータルでは読める。不確実な近道より、確実な遠回り。
それでも交渉や確認が要るなら、日本人の強みを使う。漢字で見せればいい。「转机(乗り継ぎ)」「国际转国际」「我不入境(入国しない)」といった要点を、スマホのメモに漢字で用意しておく。口頭の英語より、筆談に近い漢字のほうが確実に通じる。翻訳アプリを使うなら、金盾の影響を受けないahamo等のローミングでGoogle翻訳を使える状態にしておくか、百度翻訳を事前に入れておくこと。
サテライトは「食の砂漠」でもある
そしてサテライトに渡ってしまうと、食事の選択肢が痩せる。
見かけたのは、牛丼のすき家とラーメン系の店くらい。そのすき家もワンオペで、十人ほどが番号札を持って待っていた。店は開いている。メニューもある。だが回す人手が一人しかいないので、機能としては半分死んでいる。
さらに困るのが、コンビニ(セブンイレブン)が到着フロア側にあることだ。出発側の制限エリアに入ってしまった乗り継ぎ客は、そこへ戻れない。喉が渇いても腹が減っても、最も頼れるはずの24時間コンビニが、動線の不可逆性の向こうにある。見えていても、買えない。
つまりサテライトは、横になれる特等席がある代わりに、食の補給線が断たれた島だ。横臥を取ると、補給を失う。だからこそ、水とカロリーは、サテライトに渡る前、できれば出国空港で積んでおく。線を越えてからでは遅い。
検証:90分乗り継ぎは可能か
今回の往復には、もうひとつ目的があった。浦東での90分乗り継ぎが現実的に可能か、自分の足で時間を計ることだ。
MU/FM(中国東方航空・上海航空)は、国際線同士の最低乗り継ぎ時間を90分として公式にアナウンスしている。これは航空会社が「成立する」と保証している接続であり、万一乗り継げなくても次便への振り替えは航空会社の責任になる。自分で別々に手配した別予約なら自己責任で詰むが、公式の通し券の90分なら、最悪でも救済のネットが張られている。
そのうえで、今回の実測はこうだ。最も不利な動線を通った―サテライト(S1)到着、APMで本館T1へ、入国審査。ここまで、T1での入国完了まで、実質約45分。荷物のターンテーブルまで含めて約60分だった。
ただしこの45分には前提がある。CDAC(入境カードの電子申告)を事前に取得済みで、トイレにも寄らず、最短動線をノンストップで進んだ場合の数字だ。今回はイミグレ直前でCDACを処理したので、事前に済ませておけばさらに数分は削れた可能性がある。逆に、申告に手間取ったりトイレに一度寄れば、この45分はあっさり膨らむ。だからCDACは事前取得を強く勧める。90分を攻めるなら、イミグレ前で申告する数分すら惜しい。
そして荷物がスルーチェックインされていれば、本来ターンテーブルに寄る必要はない。検証すべきは「身体がエアサイドに戻るまでの時間」であり、それが今回およそ45分。今回は念のため、赤タグの荷物が正しく転送されているか確認も兼ねて少しターンテーブルに立ち寄り、休憩も取った。それを15分ほど挟んでも、出国ゲートまで約60分だった。
つまり、攻めれば入国完了まで45分。荷物の確認と一息という寄り道を挟んでも、出国ゲートまで60分。公式の90分という枠は、ワーストの動線(サテライト到着・本館入国)を通り、寄り道込みでなお、30分の余白を残して収まったことになる。何事もなければ、90分チャレンジは可能かもしれない。
ただし、この45分は最速値だと考えてほしい。今回はイミグレが空いていた。深夜から早朝にかけて便が重なれば、あるいは長距離便が一斉に到着する時間帯に当たれば、入国審査の列はこんなものでは済まない。CDACの事前取得もトイレを我慢することも自分でコントロールできるが、イミグレの混雑だけは、発券時にもチェックイン時にも、当日その場まで読めない。45分はその運が良い方に出た一回の記録であって、保証された数字ではない。
そして、60分で着いたのは荷物のターンテーブルまでで、そこから先―保安検査の列、ゲートまでの移動―が残る。サテライト発着ならゲートも遠い。ディレイが乗れば、最後はファイナルコールで名前を呼ばれ、広いターミナルを走ることになる。「間に合う」と「走らずに済む」は別の話だ。
挑むなら、条件を揃えること。MU/FMの同一グループ・同一予約・国際から国際・荷物スルー。CDACは事前取得。そして、後ろに余裕のある日程か、最悪でも泊まれる退路を確保した上で。45分を前提に組むのは無謀、60分を標準と思うのも危うい。公式の90分を額面どおり受け取るなら―今回の実測は「可能」を支持している。
どこで過ごすか ― 有料の選択肢
無料で横になる方法が「PVGジャンボ」の抽選になった以上、確実に横になりたいなら、有料の選択肢を知っておく価値がある。
カプセルホテル・仮眠施設
浦東空港内には睡眠舱(スリープキャビン)や計時賓館(時間制休息室)といった仮眠施設がある。料金はそれなりにかかるが、確実に横になれるのは大きなメリットだ。睡眠舱は制限エリア内(国際出発側)にあることが多く、入れる資格と時間が前提になる点には注意。Trip.comや百度で「浦东机场 胶囊酒店」「浦东机场 休息室」「睡眠舱」で検索すると、最新の情報が見つかる。
空港周辺のホテル
空港近くにホテルもいくつかある。深夜到着で数時間だけ寝たい場合、空港周辺の格安ホテル(100〜200元程度)も選択肢だ。ただし、深夜にホテルまで移動して、早朝にまた空港に戻るのは、それはそれで面倒ではある。
到着ロビー側(セキュリティ外側)
24時間化やジャンボの抽選に外れて、到着ロビー側で過ごすことになった場合。ベンチや待合スペースはあるが、横になれる場所は限られている。肘掛け付きや、横になることを想定していない設計が多い。壁際でリュックを枕にして座って仮眠するスタイルが現実的だ。床に直接座ることになるので、折りたたみの座布団やマットがあると少しマシになる。
持ち物チェックリスト
二度の夜を経て、優先順位がはっきりした。重要な順に挙げる。
羽織りもの一枚(通年・最重要)
冬と夏で中身を変える。
冬に中国北部や内陸を経由するなら、ウルトラライトダウン+フリース+ネックウォーマー。冬の空港泊で防寒を甘く見ると詰む。バンコクは30℃超、冬の上海は0℃前後。この温度差をウルトラライトダウンとフリースだけでしのぐのは無理がある―というのが2024年の痛恨の教訓だ。機内用ブランケットがあればさらに心強い。
夏場、浦東のような経由なら、パッカブルの薄手ウインドブレーカーで足りる。夏に相手をするのは外気ではなく、冷房の風と石・ガラスからの放射冷えだ。断熱より防風で十分で、畳めば手のひらサイズ。30℃の出発地でも荷物にならない。
そして、どちらの季節でも、この一枚は着るだけのものではない。丸めれば枕になり、石のベンチや床に敷けば冷えと硬さの緩衝材になる。横になれない椅子や、制限エリアの石の島で、体と素材のあいだに挟む一枚が効く。ネックピロー・アイマスク・耳栓があればなお良い。
床に直接寝ないためのもの
床からの冷気は想像以上に体温を奪う。ダウンを着ていても背中側から冷えてくる。段ボールを敷いている人もいるが、どうしても横になるなら、キャンプ用の薄手マットか、最低でもレジャーシートを一枚。100均のもので十分だ。
このマットは、防寒以上の意味を持つようになった。浦東で無料で横になれる場所は年々絞られている。潰された床や石のベンチしか空いていない夜、自分の装備でそこをベッドに変えられるかどうかが、横になれるかどうかを分ける。
食料・補給(軽視されがちだが、これで詰む)
二度目の夜で痛感した。最大の敵は、寒さでも寝床でもなく、空腹だった。
まず、搭乗便に機内食があるかどうかを予約アプリで事前に確認すること。LCC的な発券だと、機内食が付かないことがある。今回のバンコク発の便は機内食がなく、出国前のスワンナプームでバーガーキングを食べていなければ、深夜の浦東で完全に詰んでいた(機内食がないと気づいたのは、その食事中にアプリを見たときだった。助かったのは半ば偶然だ)。
浦東のサテライト側は、食の選択肢が乏しい。深夜は店が限られ、開いていてもワンオペで長い行列になっていることがある。コンビニが到着フロア側にしかなく、制限エリアに入った後では戻れない、という構造的な罠もある。だから補給は、現地に着く前―出国空港か、せめて制限エリアに入る前―に済ませておくのが鉄則だ。水とカロリーを、線を越える前に積んでおく。
サーモス水筒(あれば便利、なくても回る)
必須ではない。条件付きで効くアイテムだ。
水を飲むだけなら、給水機に備え付けのカップがある。カップ麺もその場で湯を入れて食べればいい。サーモスが本当に効くのは、確保した寝床を立ちたくないときだ。一度横になれる場所を取ると、給水機まで往復している隙にその席を失いかねない。その「立たなくていい権利」に価値を感じるなら持つ。給水機まで歩く手間を許容できるなら、なくても回る。冬場、熱湯を汲んで携帯の防寒源にできるのは変わらず大きな利点だ。
モバイルバッテリー
眠れない一晩をスマホで過ごすと、電池が持たない。必須だ。
市内に出るという選択肢
上海は中国最大の商業都市であり、観光の見どころも多い。乗り継ぎ時間に余裕があるなら、市内に出るのは十分にアリだ。むしろ、空港が「滞在する場所」として年々厳しくなっている今、長時間の乗り継ぎを取って街に出てしまうのが、いちばん人間的な過ごし方かもしれない。
日本国旅券所持者は、観光・商用・親族訪問・交流・トランジット目的の30日以内の滞在ならビザ免除で入国できる(この措置は2026年末まで延長されている)。144時間トランジットビザの計算をするまでもなく、普通に入国して街に出られる。リニア+地下鉄で外灘(バンド)や南京東路あたりまで1時間ちょっと。半日あれば上海のハイライトを駆け足で回れる。
ただし深夜に到着した場合は、地下鉄もリニアも終了している。タクシーかDiDiで市内に出ることになるが、冬の深夜に疲れた状態でわざわざ市内まで出るのは、体力的にもコスト的にも割に合わないことが多い。乗り継ぎ時間が日中にかかるなら、話は別だ。
上海浦東を経由する主な航空会社
中国東方航空(MU)
浦東空港を最大のハブとする航空会社だ。日本からは成田・羽田・関西・中部・福岡・那覇など多数の都市から上海への直行便があり、上海からバンコク、チェンマイ、ハノイ、シンガポールなど東南アジア各都市への接続便が豊富。日本〜東南アジアの乗り継ぎで浦東を使うケースの大半は中国東方航空だろう。前述の90分という最低乗り継ぎ時間も、このMUと上海航空(FM)の国際線同士に適用される。
春秋航空(9C)
上海を拠点とするLCC。浦東ではなく虹橋空港を拠点としているが、一部の国際線は浦東発着。茨城や関西から上海への格安便がある。
吉祥航空(HO)
上海を拠点とするキャリア。関西や那覇から上海への便があり、上海から東南アジアへの接続もある。
その他
中国国際航空(CA)、中国南方航空(CZ)、上海航空(FM)なども浦東発着の路線を持っている。
通信環境
浦東での空港泊もahamoのローミングで通信した。金盾(グレートファイアウォール)の影響を受けず、LINEやGoogle検索がそのまま使えた。
深夜の空港で眠れない一晩を過ごすにあたり、スマホでネットに繋がる安心感は大きい。翌朝のフライト情報の確認、空港内の情報検索、日本の家族への連絡――全てahamoのローミングでまかなえた。一晩のトランジットのために中国対応eSIMを買う必要はない。ahamoや楽天モバイルのローミングで十分だ。詳しくはローミング活用術の記事を参照してほしい。
まとめ ― 浦東の空港泊は「三層」になった
上海浦東国際空港は中国最大級の国際ハブであり、中華系キャリアの乗り継ぎで最も遭遇しやすい空港だ。それだけに空港泊の需要も高いが、巨大すぎるゆえに「どこで過ごせばいいかわからない」という落とし穴がある。
2024年の夜は、まさにその落とし穴にハマった。あれは寒さと寝床の話だった。だが2026年に再訪して分かったのは、浦東がこの二年で、空港泊という行為そのものを静かに締め出しにかかっているということだ。T2の1,000席が消え、ベンチは横になれない形に変わり、無料で寝られた床は潰された。
その結果、浦東で横になる方法は、いまや三つに分かれた。
ひとつ、課金する。睡眠舱や計時賓館は、金さえ払えば確実に横になれる。確実性を金で買う道だ。
ふたつ、持参する。キャンプ用マットと羽織りもの一枚を背負っていけば、潰された床を自分の装備でベッドに変えられる。確実性を荷物の重さで買う道だ。
みっつ、籤を引く。横になれる数少ない場所は、もはや早い者勝ちの「PVGジャンボ」の当たり券でしかない。無料で横になれるかもしれないが、外れれば横になれない椅子で朝まで耐久することになる。タダのかわりに、確実性を手放す道だ。
かつては、この三つが一枚の床に収まっていた。無料で、横になれて、ほぼ確実に空いている―その三拍子が同時に成り立つ床が、昔はどの空港にもあった。浦東から消えたのは、ベンチでも快適さでもない。その一枚の床だ。
だから2026年の結論はこうだ。確実に横になりたいなら、金を払うか、装備を持つか。無料で済ませたいなら、運に賭けるしかない。「タダで・確実に・横になれる」は、もうこの空港には存在しない。
そして、最大の敵は寒さでも床でもなく、空腹かもしれない。サテライト側は食の選択肢が乏しく、頼れる店も深夜は機能していないことがある。機内食の有無は予約アプリで事前に確認し、無ければ出国空港で腹を満たしておくこと。横になる戦略より先に、燃料の戦略だ。
通年使える羽織りもの一枚が一着れば防寒、丸めれば枕、敷けば石の冷え止め。これだけは夏でも持つ。そして一食分の備蓄。この二つを持って、運に賭ける夜に臨む。
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